平成15年度の青年会議幹事長に就任しました、三祐コンサルタンツの香西と申します。
私が青年海外協力隊に参画しました昭和50年代後半から、援助の重点は基礎的な経済インフラ分野から貧困・医療・社会分野などへ大きくシフトしています。新ODA大綱においても内戦や紛争後の地域の安定を図る「平和の構築」を国際貢献の柱と位置づけ、この分野への援助を新ODA大綱の重点事項としています。
先日、JICA案件でマダガスカル国の資料を集める機会がありましたので、ここに一部紹介します。
マダガスカル島はアフリカ大陸のすぐ近くにありながら、他のアフリカ諸国と大きく異なっている。それは、世界で4番目に大きなこの島が繰り返してきた、「対立」と「共存」と「共生」の歴史と深く関わっている。
マダガスカル社会の形成は、今から2000年前、祖先集団であるマレー系の一部がインド洋を渡って移住したのが始まりとされている。このマレー系のマダガスカル人が16世紀にはメリナ王国を建国したが、フランスに侵略され、1896年から1960年まで、植民地となっている。現在、メリナ人が、人口の約4分の1を占め、その他にアフリカ大陸を故郷とする16の民族がいるが、民族間の紛争はほとんどなかった。
マダガスカル島は、アジアとアフリカが融合した文化を持っている。人々が話す「マラガシ語」は、マレー語やインドネシア語に近く、全島で見いだされる人々の容貌は南方モンゴロイド的な特徴を供え、また米を主食とし、水田による稲作技術が普及している。稲作文化は、森と水田、川と海へと生態系の中に脈々と、昆虫、川魚、ドジョウやタニシが共生し循環型生態系を形成する文化であり、稲作文化が浸透した事実は、マダガスカルの農業がまさに共生を前提とした文化を包括している事を表している。
このようなマダガスカル島の稲作文化を基盤とする共生型農村は、今後の農村開発のモデルとなりうると思われる。農山村部と都市の地域社会を、単なる生産地―消費地、水資源の利用に関わる上流・下流関係ではなく、共感に基づく共生関係「人と水がつなぐ共生関係」すなわち共生によって新しい地域社会を創出することは、農村地域の安定を図る上で最も重要なことと考えます。幹事長就任に当たり、社外の個人や組織、同業他社との関係、NGOや大学関係との間に機能補完するような形での協調(共生)を創出すべく知恵を出し合ってゆきたいと思います。
平成15年6月18日ADCA青年会議はJICA国際協力事業団(当時)広域調査員アフリカ・農業担当西牧隆莊氏を講師にお迎えして「TICAD3(アフリカ開発東京国際会議第3回会合)に向けたJICAの取り組みについて」と題して勉強会を開催した。
当日は資料をもとに日本のODAにおけるアフリカの位置付けやアフリカの農業開発への協力の歴史、問題点、また今後の方向性等について興味深いお話をうかがうことができた。
ここに当日のお話の一部と、青年会議メンバーによるアフリカにおいて実施したプロジェクトの概要を当日のテーマの一つであるセクタープログラムとの関連で紹介したい。
1.90年代以降の日本の二国間ODAのアフリカに対する割合は10%程度である。99年度では無償が70%、技協が22%、有償が8%であった。JOCVと専門家の派遣比率は2対1である。アフリカへの技協の25%程度が農林水産業分野である。日本は地理的に遠く、歴史的に国益の繋がりが薄いことが特徴である。援助の経験も十分でないので、援助の対象地域・分野の選択・集中が求められる。
2.アフリカの開発課題は貧困削減である。貧困人口の7割以上が生活する農村地域の生計の安定と向上が必要である。小規模な農家が多いので農業生産を基礎とする農業全体の総合的な発展が欠かせない。JICAとしては1970年代から実施してきた稲作振興のような農業生産重視の開発に加えて住民参加型のような総合的・小規模の農村開発協力に取り組んでいる。
3.現在考えられている農業・農村開発分野でのTICAD?への貢献策の案は以下のようなものである:参加型小規模農村開発、食糧の安全保障・砂漠化防止、研究協力、普及活動強化、NERICA米の普及支援、地方部でのインフラ整備、セクターワイドな効果を意識した協力の推進。
4.人的資源の制約があり、アフリカ諸国に対する援助経験が比較的乏しいので、国際機関、他の援助国、NGOと連携する。
5.アフリカの農村開発は輸出作物振興のためのインフラ整備から始まり、次いでBHN充足のための総合的農業・農村開発が世銀中心に実施された。しかしながら、トップダウン方式によったこと、他のセクターも同時に持ち込まれたため当初の目標は達成されないケースが多かった。1980年代以降のアフリカへの援助は構造調整政策に呑み込まれ、農業・農村開発セクターは十分な支援を受けていない。
6.これまでの協力が必ずしも実績を上げていないという反省からアフリカの農村開発には、マクロレベルの観点から農村開発セクタープログラムを被援助国と国際機関との協調により策定してそれに沿って開発を進めようとする流れと、ミクロレベルの住民参加による小規模な総合農村開発協力の流れとがある。
7.農村開発セクタープログラムアプローチは現状では多くの場合、政策・プログラム策定を通した援助強調の段階にあり、各ドナーがプログラムに沿ってコモンファンドを拠出するような段階までは行っていない。セクタープログラムはウガンダを始めアフリカで多くの国で進められている。セクターとしては保健、教育が多く、それに次いで農業・農村開発分野が取り上げられている。
8.セクタープログラムに対して日本は必要性は認めるものの、二国間協定に基づくタイドの無償資金協力や技術協力にはなじみにくく積極的には取り組んできていない。また、農業・農村開発は公的機関の果たしうる役割に限界があることと、他の分野を含むマルチセクターであるため、ステイクホルダーが多すぎて保健、教育セクターに比べてセクターアプローチが困難であるという側面を有している。現在JICAではタンザニア、東チモール、インドネシアにおいて開発調査のスキームを使って農業・農村開発セクタープログラム策定に協力して経験を積みつつある。
9.講師の西牧氏はセクタープログラムアプローチの優等生といわれるウガンダに事前調査団長として行かれた経験がある。ウガンダではPRSPに相当するPEAP (Poverty Eradication Action Plan)を策定し、農業分野ではPMA(Plan for Modernization of Agriculture)が策定され、さらに営農普及分野ではNAADS(National Agricultural Adviser Service)が策定されている。JICAとの協調という点に関しては、PMA自体は当然のことが策定されていて問題は感じられないものの、援助協調が手段というより目的化しているように感じられたとのことである。NAADSの営農普及の民営化計画ではコモンバスケットからパイロットフェーズで給料を支払っているが、そのレベルが高すぎることから実現性に疑問を持たれたようである。
10.青年会議では今回の勉強会を機に、アフリカにおいて実施したプロジェクトの場でセクタープログラムに対してどのように考えたかについてメンバーの経験を以下に寄稿することし、3カ国を取り上げ、それぞれにおけるPRSPまたはセクタープログラムの進捗状況とその実施を通じてメンバー各社が実施しているJICA農村開発調査が受けている、または受けると考えられる影響等ついて簡単にまとめてみた。
なお、当日はこの他にも「住民参加による小規模総合農村開発協力」、「小規模農村開発の手法」「稲作振興による農村開発」を通じてアフリカの農業・農村開発に取り組むにあたって考えるべきことについても示唆に富むお話をいただいたが、紙面の都合で紹介は他の機会に譲りたい。
<アフリカにおけるプロジェクト紹介>
国名 |
モーリタニア共和国 |
エチオピア共和国 |
タンザニア共和国 |
地域 |
オアシス地域開発計画調査 |
オロミア州中央地域灌漑開発人材育成計画調査 |
コースト州貧困農家小規模園芸開発調査 |
C/P機関 |
オアシスプロジェクト局 |
首都アジスアベバ周辺地域 |
コースト州(首都近郊) |
期間 |
2001年4月〜2004年8月 |
2003年4月〜2004年9月 |
1999年11月〜2004年3月 |
援助協調の状況 |
2002年6月にHIPCイニシアティブにおける6番目のCP国に認定された。PRSPを完成させ、2015年を目標とした貧困削減戦略を実施している。作成されたPRSPは、教育、保健衛生分野に重点が置かれ、ドナーにも歓迎されており、保健セクターではコモンバスケット方式が進んでいる。農業部門でのセクター開発のほとんどは、国南部のセネガル川流域でのかんがい開発が実施されている。内陸部であるオアシス地域では現在までIFAD(国際農業開発基金)、FADES(アラブ開発基金)の支援を得てオアシス住民の組織化、地下水開発、砂漠化防止等が実施されている。近年はEUによるオアシス地域の地下水、道路部門で援助が実施されている。 |
エチオピアは2001年にHIPCに認定され、保健、教育、水の諸分野では援助手続きの共通化を進める動きがある。農業分野もセクター開発プログラム(SDP)の草案が策定されたが、ドナー諸国の承認を得るには至っていない。1996年に、第2世銀(IDA)がエチオピア社会復興開発基金(ESRDF)と称するコモンファンドを設立し、小規模な農村開発事業が全国展開されている。しかし、ESRDFは一部欧州ドナーと中国が同調するに留まっており、地域・セクター間の格差等、本格的なコモンファンドとして機能するためには改善すべき点が多い。2002年7月、エチオピアのPRSPにあたるSustainable Development for Poverty Reduction Program (SDPRP)がまとめられたことから、今後益々、セクター・ワイド・アプローチが進み、援助協調に関する論議は本格化することが予想される。現在、二国間援助は依然として重要な位置づけにあるが、援助協調に配慮した二国間援助の在り方についても検討しなければならない時期にきている。 |
PRSP先進国の一つであり、その実施に関するモニタリング期に入っている。保健セクターや地方分権等の分野では、セクタープログラムを基にコモンバスケット方式が進んでおり、国際機関、各国ドナー間の協調も盛んである。その他のセクターでも開発戦略がまとめられ、それに基づいた事業が行われる予定であるが、実施状況はセクターによりばらつきが見られる。同国農業セクターは日本が(JICAタンザニア事務所が主となって)各ドナー機関をまとめリーダーシップを発揮している。
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本開発調査の現状 |
本調査対象地域での農業セクタープログラムは南部のポテンシャルの高い地域が中心となって実施されており、本件調査対象地区に対しての影響は少ない。ただし、本件はIFAD、FADESによるオアシス開発のフェーズIIの期間中に開始され、IFADおよび他国援助機関からの資金援助を得るためのマスタープラン作成を目的としている。提案されたマスタープランの一部を実証調査として実施しその実現性を検証することから、より実現性の高い計画とする。 |
本調査は、同国最大の州(国土面積の32%、総人口の35%を占める)であるオロミア州において、1.小規模灌漑開発における水利組合の設立プロセスの標準化および2.既存灌漑地区におけるモデル改修事業を通じて、オロミア灌漑開発庁(OIDA)の組織強化と人材育成を推進することを目的としている。同州では既にESRDF、IFAD、欧州ドナー、NGOが各々の方法で灌漑開発を実施していることから、開発手法の標準化と人材育成が急務であり、OIDAはここに焦点を当てたわが国の技術協力に大きな期待を寄せている。援助協調の流れが本調査に直接的な影響を及ぼすことはないが、モデル事業である以上、本調査を国際社会に認知させることは課題の一つといえる。 |
本調査はドナー協調の流れがまだ本格化していない時期に開始されたものであり、開始に際して大きな影響は見られなかった。貧困対策を目的とした調査であり、その中で実施したパイロット事業は村のニーズを汲み上げたものである。本調査開始から2年ほど経過した頃から、同国でもセクターアプローチと地方分権化に大きな動きが見られ、その過程で県毎の農業開発計画の作成が進められた。しかし資金的な問題からそれら開発計画をもとにした事業実施は未だ本格化していない模様。日本が同セクターをリードしている関係から、より具体性のある県農業開発計画にするため、本件調査における村または県レベルでの事業の教訓をフィードバックできる関係にある。 |
今後の動き |
本案件の実証調査の一つである、オアシス地域での野菜栽培は、開始されて日も浅く、殆どの農民は確立された技術を持っていないため技術の定着に時間を要する。また今後も組合組織の拡大等、オアシス地域にIFADの援助が継続される予定である。したがって、IFADのオアシスプロジェクトのフェーズIII(2004年1月開始)と連携をとりながら、農業技術の定着のための技術援助を引き続き継続させる必要がある。 |
JICAが、小規模灌漑の開発手法確立という上流域の技術協力を実施したことの意義は大きい。本調査後は、 1.パイロット事業の長期的なモニタリング評価と教訓のフィードバック、 2.半乾燥地における環境配慮型灌漑技術の確立とこれを軸とした農業近代化に向けた技術支援、 3.草の根無償あるいはFAO/SPFSによる灌漑開発の面的拡大、 4.試験研究と連動した営農技術改善(特に作物多様化、節水型水管理等)、 5.農業局と連携した普及員育成・農民教育、 6.協同組合推進局による水利組合への資金支援などにより、灌漑開発の持続性向上が図られることが期待される。 |
本調査での事業は農民主導または政府財源に頼らずに自立できる農村開発モデルの確立を上位の目標としているが、現時点で、調査終了後の事業継続に要する予算措置が十分にできる状態になったとは言いがたい。継続的なフォローは必要である。タ国ではすでに教育、保健、地方行政改革、PRSP実施・モニタリングの各セクターでコモンバスケット方式が導入されており、農業セクターもその検討が進んでいる。農業セクターでもコモンバスケットや一般財政支援が本格的に動くことになると、今後の日本の援助もなにかしらの形で他ドナーからのお金を利用する結果となり、援助協調という舞台において実施せざるを得ない事業が増加することは避けられないと思われる。 |
プロジェクト紹介寄稿:太陽コンサルタンツ株式会社、日本工営株式会社、株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル
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