No.82 2007.1
もくじ
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●●●寄稿●●●
●●●プロジェクト紹介●●●
●●●ADCA活動報告●●●
●●●青年会議だより●●●
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寄稿
地球のあちこちで考えたこと

(独) 国際協力機構 農村開発部
技術審議役  土居 邦弘

1 はじめに
小職が、最初にODAに関わる職についたのは、昭和63年、当時の構造改善局設計課海外土地改良技術室の海外企画係長ですから、もう20年前のことになります。それ以降、在スリランカ大使館一等書記官、国際協力銀行課長、大臣官房国際協力課の総括補佐、そして現職。この20年間、ADCAの会員の皆様に本当に色々とお世話になってきました。そのお返しに最近のキーワードについて、小職が出張先で見たこと、感じたことを報告させていただければと思います。

2 援助協調
 昨年3月に事前調査で行ったアフリカのA国は、農業セクターの援助協調の真っ只中でした。A国における援助協調の中身を簡単に言うと、農業セクターの政策策定を支援し、バスケットファンドと称する基金を造成し、これを先方政府が引き出して事業を行うというもので、ドナーは金を出すだけ、バイの協力など問題外といったもので小職には全く理解できない構図でした。『これまでバイでおんぶに抱っこの協力を実施してきたから先方政府のオーナーシップが育たず、国も発展していない』、ふむふむ、『だから基金を造成し、先方政府に事業を実施させる』えっ?『必要ならそこにコンサルタンツを雇えばよい』は〜ぁ。アイルランドが旗振りらしいのですが、これは人の金で自国のコンサルタンツを雇わせる新手のビジネスかと勝手に理解し、アフリカがそもそも発展しなかったのは、西欧のドナーが、「自らの手で発展できるような仕組みや技術者を育てるような協力をしてこなかったからじゃないか」とムカムカして来ました。そして小職は、OJTを通じて自立した技術者を育てるバイの技術協力を継続するとともに、この枠組みを逆手にとって日本が投入した資金を我田引水よろしく、有効に活用させていただこうと考えました。

3 市場原理に基づく農産物貿易・構造調整
 次は、農業土木技術者にとって苦手な貿易問題です。昨年7月、プロジェクト形成調査で中南米のB国に行きました。元になった要請は3000m以上の高原地帯に住む貧農の支援です。農業省の副大臣と政策について話をしていると出てくるのは、バナナとかコーヒーとか大規模プランテーションの問題ばかりです。小農支援はどうなっているのか?と尋ねると『構造調整で中央政府の役割は地方に渡した』と答えます。次に地方自治体で話を聞くと、『普及員や技術者は元々抱えておらず、金もないしどうしていいか分からない』と苦しんでいます。さて、農家はどうなっているかというと、JICAの支援でようやく酪農の効率化を果たした農家が言うには、『リッターあたり乳価が25セントは貰わないとやっていけないけど、米国の脱脂粉乳が15セントで入ってくるので、それに引っ張られて乳価も下がり、やっていけない。また、普及も行政サービスの合理化の影響でめったに受けられない』とのことです。米国の脱脂粉乳が、GDPで10倍も違うB国の乳製品と競争できること事態おかしなことです。「輸出補助金かぁ〜」これに気づいた瞬間、構造調整とセットで押し付けられる中南米農業がモノカルチャーから脱皮できないことに気づきました。我々はこうした不平等な市場原理が存在することを認識して、途上国の農業に対する協力を考えなければならないのです。

4 最後に
 JICAが現場主義を標榜して3年になりますが、時々変な現場主義にとらわれた案件が見られます。ある案件では『現場主義だから専門家は現場に居なければならない』などと主張する人がいました。例え現地にいても、直接農家のためにならないことをしていては現場主義ではありません。現場主義は活動の基本をどこに置くかであって、活動の物理的な場所を現場におくことではないと考えます。よくよく考えると農業土木は元々現場主義の元祖のはずです。最近、小職が厳しく指弾するケースに金太郎飴案件があります。国の名前が違っただけで、アプローチも回答も同じなのです。こうした案件は現地で調査をしただけの形式的現場主義に過ぎず、本来は個別の細かい課題を踏まえ、オーダーメイドで答えを作るような案件が出来上がってくることが期待されていると思います。ADCA会員の皆様におかれましては、現場を基本に現場主義の案件を積み重ね、現場主義の体現者としてADCA全体の評価が高まることを期待しております。
言うまでもなく農業用水利施設は、建設後の適切な維持・運営管理がなされはじめて効用が発揮されるものであり、そのため維持・運営管理のための組織の育成・強化は不可欠です。そういった意味からも計画、建設段階からの農民の参画は大切なことであり、計画、建設、管理のすべて段階での透明性は何にも増して重要なものです。これらの流れの中で、現在我々が行っている農村開発への農村参画型アプローチがあるものと思います。末端整備の問題は、古くて新しい問題です。問題の本質は変わっていませんが、我々のアプローチの仕方が今までの経験、知見を生かしながらこのように農民参画型アプローチに変わってきたわけです。今後は参画の考え方を延長し、貧しい人々の主体性を重視した生計アプローチが必要とも言われています。


プロジェクト紹介
キューバ国中央地域における持続的稲作技術開発計画調査


調査期間:2003年10月〜2006年3月
相手国実施機関:キューバ共和国農業省

調査の背景

 キューバ国は食糧輸入国であり、主要穀物の生産量は需要量の23%を占めるに過ぎない。国民の基礎食料である米は、穀物の中で小麦に次いで多量に輸入されている。そのためキューバ国政府は、米の増産を重要課題と位置づけ、1996年から自由流通米の生産プログラムを開始した。自由流通米の約45%を生産している中央地域5県(Cienfuegos県、Villa Clara県、Sancti Spiritus県、Ciego de Avila県、Camaguey県)は、生産性(収穫収量と収穫後処理効率)の向上と作付面積の拡大による増産が可能な潜在力を有している。この可能性を発揮させるためには、自由流通米を生産している小規模農家では投入資源が限られていることを認識し、持続可能な米の生産技術を改善する必要がある。

技術開発の課題と方向性

自由流通米生産の位置づけおよび方向性を考慮すると、自由流通米の増産と生産性の向上のためには、その生産に適した技術開発が重要であると判断された。また、自由流通米の生産の拡大は、利用可能な資源(農業投入材や潅漑、機械、技術支援等)の制約が大きく、これらの資源がどれだけ利用できるかが重要な要素となった。

開発計画

開発計画の主要な対象者は、信用サービス協同組合(CCS)のメンバー、借地農家(Parcelelos、Prestamos)を中心とする自由流通米を生産する個人経営の小規模農家および自由流通米の生産促進に関連する組織および関係者である。開発計画は、基本方針‐1:生産者の技術改善、基本方針‐2:生産環境の改善、基本方針‐3:普及活動の支援に関しては、郡レベルの圃場における活動により実現する。また、基本方針‐4:関係機関の強化に関しては、国レベルの関係機関における活動により実現する。稲作タイプは、単独の技術改善により構成されるのではなく、技術改善の組み合わせ、すなわち、相互に関連する技術改善のパッケージである。

アクションプラン

アクションプランの内容は、郡レベルのアクションプラン「持続的稲作技術改善プログラム」(栽培技術の改善、収穫後処理技術の改善、普及活動の改善)および関係機関のアクションプランで構成されている。アクションプランは、2006年から2015年の10年間の実施を目標に、12個の構成要素から成り立っている。構成するプログラムは、その目的、重要性、緊急性に基づいて系統だって実施されなければならない。プロジェクトは、その実施期間に応じて中期および長期計画として2段階で実施される。最初の5年間は、中核プロジェクトの実施と長期計画の準備期間として位置付けられ、稲作栽培技術の改善を実施する上で必要となる支援体制や人材育成に当てられる。その後、栽培技術の改善を普及定着させる活動が長期計画として実施される。

結論

本開発計画の実施により、キューバ国中央地域5県の小規模農家において、持続可能な技術を活用した米の増産が可能となる。さらに、各郡のアクションプランを実施することにより、中央地域5県全体への展開が可能となる持続的な技術モデルとして稲作タイプが定着し、波及効果としてキューバ国の自由流通米の生産に大きく貢献することになる。そのため、本開発計画を早期に実施することが非常に重要である。

現在の畜力を利用した代かき作業
手動播種機による実証試験
国産農機具による農民の実践


 
ADCA活動報告
  ADCA PCM手法研修会の開催

ADCAでは、国際協力における開発手法として活用されているPCM(Project Cycle Management)手法を用いて「Plan‐Do‐See」の一連の流れからプロジェクトの管理手法を修得できることを目指し、研修を開催している。今年度は、7月10日から13日にはPCM手法の参加型計画・立案について、8月29日から9月1日にはモニタリング・評価についてモデレータに?国際マネジメントシステム研究所の花田重義氏を招き、研修を開催した。

両研修では、ADCAが作成したテキストを用い、演習も農業分野を題材として実施した。また、ADCA正会員・賛助会員から計画・立案手法の研修には7人が、モニタリング・評価手法の研修には11人が参加し、講義とグループ作業を通じて手法の修得に努めた。

その結果、ほぼ全ての参加者が、本研修に対して期待通りであったとの回答を寄せており、研修に対する評価は概ね良好であった。研修最終日に実施した理解度確認テストでも両研修とも平均点が80点以上であり、理解度の高さを示す結果となった。また、PCMワークショップや相手国実施機関への説明などあらゆるところでプレゼンテーションや交渉などを行う機会が増え、業務の円滑な遂行のためにそれらの技術が重要となっている。そのため計画・立案の研修ではプレゼンテーション技術の講義を行うとともに、受講生がグループ作業の結果などを発表、説明する機会を多く設け、プレゼンテーション技術の修得にも努めた。さらに、1対1で交渉を行う演習を行った結果、同じ情報を得ているにもかかわらずグループによって結果が異なり、受講生の間で交渉能力の必要性を再認識する機会となった。さらにモニタリング・評価の研修では、モニタリングと関連してプロジェクトの運営・管理に関する手法についても講義に取り入れた。それにより、モニタリングの位置付けや視点などの認識が深まるとともに、プロジェクト運営の際に配慮すべき多様な事項を整理する機会となった。

ADCA講演会の開催

JICA農村開発部 古賀 重成部長
7月7日にJICAの農村開発部長 古賀重成氏をお招きし、「平成18年度JICA農村開発部の事業概要」について講演頂いた。
講演では、農村開発に関するJICAのスキームや地域ごとの近年の実績とその傾向が示された。また、具体的なプロジェクトの事例を参考にして、近年の援助手法の傾向などについての説明があり、農業を中心とした農村開発、貧困削減への貢献などについて、活発な意見交換が行われた。

JICA農村開発部 第3グループ長 北中真人氏、内島光孝氏
9月22日にはJICAの農村開発部第3グループの北中真人グループ長と内島光孝氏をお招きし、「アフリカの農業・農村開発におけるJICAの取り組み」と「JICAのネリカ普及支援」について講演頂いた。
講演では、北中グループ長からアフリカにおける農業・農村開発の位置付けや支援方法についての説明があった。また、内島氏からは、アフリカでのコメの消費増に伴い農業開発分野で注目されているネリカについての説明があった。現在普及段階にある陸稲ネリカは、高収量で乾燥や病害に強い品種である。ネリカの開発などには日本の複数の機関が関わっており、その中でのJICAの分担や実績、協力案などについての説明があった。

青年会議だより
青年会議勉強会 2006年6月19日

農林水産省農村振興局設計課海外土地改良技術室の土肥課長補佐をお迎えして、2006年3月に海外土地改良技術室によって作成された「農業農村開発協力の展開方向〜貧困削減と農業農村の持続的発展をめざして〜」に関して勉強会を開催しました。勉強会では、以下の内容について説明があり、その後、意見交換が行われました。

1.展開方法とは
2.開発途上国の農業農村開発を巡る状況の変化
3.農業農村開発協力の実績
4.農業セクターにおける成果の評価
5.農業農村開発協力の新たな視点
 ・ 極度の貧困と飢餓の撲滅
 ・ 地球環境の保全
 ・ 復興支援
 ・ 人間の安全保障の実現
 ・ 「人づくり」の推進
6.農業農村開発協力の新たな展開方向
 ・ 貧困・飢餓の撲滅や人間の安全保障の実現にも資する灌漑開発の推進
 ・ 復興支援や地球環境の保全にも資する「村づくり」協力の推進
 ・ 持続循環型の農業農村へ向けた技術開発
 ・ 地域の特性に応じ重点化した協力
 ・ 効果的・効率的な協力の推進

青年会議勉強会 2006年8月10日

(社)農村環境整備センターから主任研究員森井氏をお迎えして、「環境に配慮した農業農村整備」をテーマに青年会議勉強会を開催しました。勉強会では、2006年3月に作成された技術指針や事例を基に説明が行われました。

1.農村地域の特徴と生物多様性
農村では、水路やため池等の定期的な泥上げにより腐敗した泥の堆積が抑えられ、動植物の生息環境が保全されてきた。さらに、四季を通じた水田の変化と農作業を行う人々の姿などが一体となって美しい景観を形成してきた。このような自然は、原生自然とは異なり、農業生産活動を前提として成立している二次的自然であり、保全・形成には持続的な農業の営みが不可欠となっている。
また、二次的自然が創り出した生物多様性は、a.農業や生活を営む上での価値(動植物の生息による土壌への有機物の供給や水質の浄化等)、b.教育・文化的な価値(自然観察、伝統的な食文化や漁法等と密接に関連)などを有している。

2.生息・生育環境及び移動経路(ネットワーク)
・生息・生育環境(ハビタット)は、水生動物の場合、流速、水質、水深等の要素で構成されており、生活史の段階毎に異なる。そのため、生活史を理解した上で、生息環境を確保することが重要である。
・移動経路(コリドー)は、産卵や繁殖の場となる水田への移動など、生物が利用する環境への移動経路を確保することが重要である。

3.調査・計画
・生態系は複雑であり、地域の生態系を代表する生物に着目(食物連鎖での位置、希少性、特殊性)した合理的な調査・分析を行うことが重要である。
・地域住民、行政機関、NPOなど地域が一体となって環境配慮対策に取り組むことが重要である。
・地区全体でネットワークを考慮した対策を検討し、農業生産性の向上と環境保全の両立を図ることが重要である。例として、用水路をパイプライン化することで農業の効率を図り、排水路部分を中心に生態系に配慮した事例がある。

4.設計・施工
・指針では、環境配慮工法を体系化し、工法の考え方を具体化しており、これらを参考に階段式魚道、ワンドの設置、自然石系護岸など現地への導入が可能と考えられる工法を選定する。
・地域住民、行政機関、NPOなど地域が一体となって環境配慮対策に取り組むことが重要である。
・施工時においては、施工時期を考慮した環境配慮対策を講じ、また、留意すべき事項は関係者間で徹底する。

5.維持管理・モニタリング
地域の環境保全の効果は、地域が一体となった維持管理の取り組みが将来にわたって継続的に行われることが重要である。そのためにも、環境保全の取り組みが農家にとってもメリットとなる方法を構築することが重要である。

6.地区事例
冬期湛水(作付けのない冬期に意図的に水田に水を張る)の取り組みを行っている地区では、雑草の抑制、微生物の活躍による土壌の改善、農薬投入量の減少、渡り鳥の飛来のほか、安全性・環境評価による米のブランド化などの効果がもたらされ、動植物の生息環境の創造や地域振興に役立っている。

青年会議勉強会 2006年8月10日

独立行政法人国際協力機構無償資金協力部農漁村チーム長の永友氏をお迎えし、「無償資金協力と農業農村開発」をテーマに青年会議勉強会を開催しました。

勉強会では、まず初めに、無償資金協力の全般的な話としてその分類・スキームや予算の傾向、分野別の実績割合について説明があった。続いて無償資金協力による農業農村開発における傾向として、予算の減少や分野別割合の低下、農業開発から農村開発への変化などについて説明があった。また、気候や市場の影響、効果が出るまでに時間がかかるなどが農業開発の難しさとして挙げられていた。
さらに平成18年度から導入された無償資金協力の新しいスキームであるコミュニティー開発支援無償についての説明があった。コミュニティー開発支援無償は、コストを削減するため方法や迅速・機動的に事業を実施するための方法が取り入れられており、現在は学校建設を中心として実施されているが、今後他の案件についても実施する予定である。
最後に、農業農村開発と関係があるもののコンサルタントには馴染みの薄い貧困農民支援について、その歴史や特徴、最近の状況についても説明があり、その後意見交換が行われた。



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