No.85 2008.7
もくじ
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●●●寄稿●●●
●●●プロジェクト紹介●●●
●●●ADCA活動報告●●●
●●●青年会議だより●●●
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寄稿
TCAD IVを終えて

原田 幸治

(社団法人 海外農業開発コンサルタンツ協会 企画部長)

 5月1日付にて企画部長に就任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

 TICAD IV(第4回東京アフリカ開発会議)が横浜で、去る5月28日−30日まで、開催されました。冒頭福田首相より今後10年間でアフリカでのコメ生産の倍増計画(現状1400万トン)及び今後5年間でアフリカ向けODAを倍増する旨の基調講演があり、議長サマリーでは、TICAD IVにおいて表明されたアフリカの声が1ヶ月後に開催される北海道洞爺湖サミットの議論に反映されることに対する参加者からの強い期待が表明され、福田総理はその決意を表明するなど大きな成果がありました。最終成果物として発出された「横浜宣言」では、低い農業生産性、乏しい農業インフラ、食料価格高騰及びそれらがアフリカにおけるに貧困削減に与える悪影響に対しての言及がなされ、農業及び農村開発については、アフリカ大陸の経済活動の主要な:構成要素としての農業の役割を確認し、現在の農業生産性を高め、水資源の供給及び管理等を通じてこの重要な分野への支援を急速に増加することの必要性が強調されました。

 また、「横浜行動計画」ではより具体的に、今後5年間に措置として、水関連インフラについては灌漑農地割合及びその他の水管理インフラを迅速に拡大するための農業用水開発イニシァティブの支援が言及され、今後10年間でアフリカ諸国におけるコメ生産量倍増を目指すこと、今後5年間で灌漑地域面積を20パーセント拡大することを目指す共同の取り組みに貢献するために水資源管理のためのインフラの開発・修復・維持を促進すること、小規模のコミュニティーが管理する灌漑設備や、地域市場のための水管理スキーム及び高付加価値市場のための個別小規模スキームに対する資金援助の提供等が提案されました。サブサハラの全耕作地に占める灌漑面積は約4パーセント(アジアは約38パーセント)といわれており、残り96パーセントは天水に頼っており、農業生産性を高めるためにも、灌漑施設の整備に全力をあげる必要があると思われます。この流れを会員の皆様方と一緒になってフォローの風として生かしていきたいと思っております。

 我が国の開発援助の4つの重点課題は、1)貧困の削減(教育、保健、農業。農村等のバランスのとれた活動を通じた) 2)持続的な成長(インフラ整備、人づくり等による) 3)地球的規模の問題への取り組み(環境・エネルギー等) 4)平和構築(紛争予防、紛争解決、紛争解決後の復興支援)です。貧困の削減については、世界の貧困人口の約4分の3は農村部住民であること、また、都市貧困者の多くも元をたどれば農村からの出稼ぎ労働者や離農者であることから、農村部に対する開発協力は貧困削減に寄与するところ大といえます。また、世界の人口は現在の約60億人から2050年には約90億人に増大し、現在ですら、十分な食料にアクセス出来ない人口が約8億人存在するという事実、また今日の世界的食料価格の高騰のトレンドがしばらく続くという予測もある中、食料を供給する手段としての農業に一層力を注ぐ必要がある。いずれにしろ貧困の削減は農業農村開発なしでは解決しえない課題です。

 農業農村開発は農業開発と農村開発を一体的行うという概念であり、農業の生産性を高めることを通じて地域住民の持続的な生計向上を図り、最終的にはその地域全体の発展を目的とするものです。そのため組織(水利組合、農協等)の育成強化も重要な要素ですし、開発(事業活動)の進め方としては住民自身がその開発に参画しているという意識(オーナーシップ)を持たせ進めていくことが必要であることは言うまでもありません。また道路(特に農村部と都市を結ぶ農道は流通・物流の改善にも寄与するところ大)、水路、農村電化、通信網整備等のインフラ整備は勿論必要ですが、そのインフラ施設が住民によって十分利活用され、その地域の人全てが裨益すること、また、地域住民自らがその維持管理・運営出来るようにするためにも計画段階からの住民の参画が必要です。

 最近世界各地で大規模な自然災害が起きていますが、農村部はもともと傾斜地や低平地に耕作することもあり災害に対するぜい弱性が高いため、災害をより小さくするための防災対策が重要と思われます。これは新たに施設を造るというハード対策というよりは、災害による人的被害を最小にするための集落(コミュニティー)内の諸活動による地域防災機能を強化(自助力を高める)しておくことが肝要です。このことについては今後農業農村開発をしていく際のコンポーネントとして考えていく必要があると思います。また、TICAD IVでも女性の人権の推進・保護及び女性のエンパワーメントの促進が重要であるあることが改めて強調されましたが、農業農村開発を進めていく際も益々重要なコンポーネントであると思われます。

 アフリカにおける農業農村開発を進めるに際しては、アフリカの国々のもつ多様性について十分配慮する必要があり、基本的には人の問題(人の健康・衛生問題、教育等を通じたキャパしシティービルディング、最終的にはオーナーシップ即ち自発・自立性)、組織・制度の問題(水管理組織、農民グループ)、インフラ(水、道路等の狭義の農業インフラだけでなくポストハーベストまで生産から流通まで)、技術・普及・研究の問題(ネリカ米等新品種、新技術)、社会・経済の問題(政治意志・投資・金融・マーケティング)の5つの問題及びこれらに起因する事柄に適切に対応していき、それらの相乗効果を積み上げていくことが重要と思われます。

以上


プロジェクト紹介
シリア国節水灌漑農業普及計画プロジェクト

             (Project on Development of Efficient Irrigation Techniques and Extension in Syria (DEITEX))                                     

実施形態JICA技術協力プロジェクト

実施期間2005年3月〜2008年3月

対象地域ハマ県、ダマスカス郊外県、ダラ県

実施期間自然資源研究所科学農業研究統括局、普及局、灌漑近代化推進局、共に農業農地改革省所属

【はじめに】                                                        

 シリア国における水不足という状況は、この地域の地形的・気象的条件から度々発生していたが、近年の人口増加等に起因した顕著な水不足は大きな問題になっている。一方で、シリア国の全水需要の85%以上が農業分野での利用で占められている状況、かつ上記問題に関係した農業分野における灌漑農業のニーズの増加状況から、限られた水資源の持続的かつ効率的な利用が農業分野における最重要課題になっている。

 シリア国政府は2000年に発表された大統領令に従い近代的節水灌漑農業の導入を推進してきたが、その導入成果は低いものであった。このような背景から、本プロジェクトは、1)試験場ではない農家の圃場レベルでの近代的節水灌漑技術の確立、2)近代的節水灌漑技術を農家へ広めるための灌漑普及員および灌漑技術者育成研修の実施、3)各種普及活動を通した近代的節水灌漑技術の伝播を活動の3本柱に実施されてきた。

【圃場レベルの近代的節水灌漑技術の確立】 

 各県においては、既に近代的節水灌漑農業が導入されている地域も存在していたが、不適切な敷設・運営・管理による灌漑効率の低下が問題とされていた。この問題に対処すべくプロジェクトでは、各県に協力農家を求め、デモンストレーション圃場を設立した。その設立に当たっては、周辺農家でも導入可能な資機材を使用し、灌漑機材を既に導入している農家の実状から剥離しないように留意した。実際のモニタリング活動では、デモンストレーション農家の希望する作付計画を元に、プロジェクトで営農および水管理を提案し、地方カウンターパート、対象地域普及員、当該農家が中心となりモニタリング活動が実施された。最終的にデモンストレーション圃場設立からプロジェクト終了までの2年間に、3県のデモンストレーション圃場全体で平均21%の灌漑効率の向上が確認できた。

【灌漑普及員および灌漑技術者育成研修の実施】 

 シリア国ではこれまでにも農業省普及局および研修局が主体となって各種研修が実施されてきたが、節水灌漑技術に特化した講義は実施されてこなかった。プロジェクトでは、灌漑技術の素養を身に付けさせるための灌漑普及員育成研修およびその上級と捉えた灌漑システムを構築でき、かつ灌漑普及員に技術的指導できる灌漑技術者育成研修を実施した。灌漑普及員育成研修は4回に分かれ全4週間実施し、さらに灌漑技術者育成研修は、灌漑普及員育成研修を合格した中で、将来的に活躍できる人材を選定し2回に分かれ全4週間実施した。それぞれの研修について、受講者の95%、80%近くが技術的に合格とされた。

【近代的節水灌漑技術の伝播】

 研修活動同様、普及活動自体はシリア国で実施されてきたが、既存の普及活動では、農業一般に関する事柄をテーマにしたポスター・パンフレットの配布や、研究者が農家へ専門性の高い技術を教えるといったように、圃場レベルの近代的節水灌漑技術を伝えるような普及活動は実施させてこなかった。プロジェクトでは、まず節水灌漑技術を広める素地として節水マインドに関するポスター、節水灌漑技術の優位性を示すポスターの作成・配布、加えて灌漑農業を導入している農家を対象に適切な節水灌漑技術の使用方法に言及したポスター・パンフレットの作成・配布を実施した。さらに、プロジェクトで実施された研修を通して育成された灌漑普及員を中心としたモデル普及活動を実施した。このモデル普及活動は、対象とする農家のニーズに合致した普及活動ということで様々な形態で実施された。3県で15回実施され参加者のみならず関係機関からも好評を得た。

【おわりに】

 プロジェクト実施機関内に、圃場レベルで培った近代的節水灌漑技術が研修・普及活動を通して農家へ伝えられるような体制の下地作りは関係機関を巻き込んで構築した。また数は少ないようではあるが、プロジェクトのノウハウを生かした研修・普及活動が実施されるようになってきたようである。今後の進展を期待したいところである。                                         

                                                                       


 
ADCA活動報告
ADCA通常総会・理事会の開催

 2008年5月30日にADCAの第61回理事会が開催され、続いて第32回通常総会、第62回理事会が開催された。今回は役員の補欠選任が行われ、安村専務理事が退任され、新たに竹内兼藏氏が専務理事に就任された。
 また会議終了後には、懇親会が開催され、農村振興局の中條局長、JBICの田波総裁、JICA松本理事から来賓のご挨拶を頂いた。懇親会には70名以上の方々に参加して頂くことができ、関係者間の交流を深める有意義な場となった。ご多忙の中御出席頂いた皆様には感謝申し上げます。

青年会議だより
青年会議勉強会 2008年5月14日

 農林水産省農村振興局設計課海外土地改良技術室の柏原学課長補佐、國廣博昭係長、大森有晃技官の3名をお迎えして、農業・農村開発分野での将来に向けた問題意識や主要テーマに関する共通認識を深めることを目的として、意見交換会が開催されました。まず初めに現在に至るまでの海外農業農村開発事業のトレンドについて説明があり、その後、今後の開発の方向性について、質疑応答を交えながら活発な議論が行われました。

1 海外農業農村開発事業のトレンド

 1990年以前: インフラ整備を中心とした農業生産性の向上に対する貢献の一方、社会環境等開発に対する負の影響への配慮が十分  ではなかった。また、農業ソフト分野に対する支援が十分とは言えず、必ずしも当初計画の効果を発揮できてはいなかった。

 1990年代: 参加型による農村開発、生活改善事業、さらには、環境保全、WID・ジェンダー等が重視されるようになり、総合農村開発型の技術支援へと転換した。一方で、NGOs、世論などによるインフラ支援に対する偏向したネガティブ・キャンペーンが散見されるようになった。

 2000年以降: 地球温暖化、人口増加、バイオ燃料の利用促進、穀物価格の高騰などグローバルな影響が懸念され、食料安全保障が重視されるようになる。開発のテーマは貧困削減が主軸になりつつも、日本国内の食料自給率低迷や食料供給基地の確保を見据えた国益に合致した戦略的支援が重視され始めている。

2 今後の開発の方向性

2-1 大規模農業開発への回帰

Q1 近年、参加型による小規模開発が潮流となっているように感じられる。一方で、昨今の穀物価格高騰を鑑みると、食糧増産のためには大規模な支援が喫緊の課題と考えられるが、今後、大規模農業・灌漑開発への回帰は考えられるだろうか。

A1 参加型や小規模ということが前提でODA支援が行われているわけではない。今後もポテンシャルの高い大規模開発は必要になると思われる。コンサルタントからの積極的な提案を望む。

2-2 ブーメラン効果と食料安全保障

Q2 最近の海外農業開発におけるブーメラン効果の取扱については、農水省ではどのような位置づけなのか。インドネシアの果樹加工振興案件では、日本向け輸出を行っている民間企業との連携を検討した。日本の食糧供給基地確保の意味でも、このような支援はODAの新たな潮流となりうるのではないか。

A2 農水省としては、日本の農業および農家を守ることを最重要課題と位置づけている。たしかに生食の野菜・果樹振興のための支援は、日本への影響を鑑みると困難だが、加工産品振興などは実施の可能性が高い。日本の農業活性化と輸入先確保の組み合わせによる日本の食料安全保障を確保することが重要であろう。

2-3 アフリカ開発

Q3 アフリカへの支援の方向性はどのようなものが有力と考えているか。画一的な技術導入では対応が困難であろうと思われる。また現状では、NERICAの普及も大きな可能性があると感じている。

A3 アフリカの農村では、灌漑組織化に困難が見られる例が多い。日本の土地改良区は世界的に見ても希少な灌漑運営組織の成功事例であり、その知見を活かすことが求められている。欧米にない日本独自の支援を展開していくことが重要であろう。

2-4 現場視察・研修プログラム

日本での現場視察は、海外研修員から好評を得ており、日本の技術を海外に移転・活用する大きな機会となりうる。今後も現場視察や研修プログラムに関するコンサルタントからの要望を遠慮なくお知らせいただきたい。


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