No.86 2009.1
もくじ
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●●●寄稿●●●
●●●プロジェクト紹介●●●
●●●ADCA活動報告●●●
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寄稿
新JICAと農業・農村開発

小原 基文

(国際協力機構 農村開発部 部長)

1. 新JICAの発足

 「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」(Inclusive and Dynamic Development)という新しいビジョンを掲げて2008年10月1日新JICAが誕生しました。新JICAはこのビジョンを実現に向けて包括的な支援、連続的な支援など4つの戦略で(1)グローバル化に伴う課題への対応、(2)公正な成長と貧困削減、(3)ガバナンスの改善、(4)人間の安全保障の実現といった4つの使命を果たしていくことを明らかにしました。農業・農村開発の分野では、これまで「持続的な農業生産」、「安定した食糧供給」、「活力のある農村の振興」の3つの戦略目標を掲げ事業を進めてきましたが、今後も新JICAのビジョンや果たすべき使命を踏まえ3つの戦略目標の達成に向けて取り組んでいきます。また、食糧問題や気候変動の影響など現在クローズアップされている課題には最重点で取り組んでいきたいと考えています。

2.成果重視、開発効果の具現化

 言うまでもなく技術協力、円借款、無償資金協力の3つの手段を持つことになった新JICAは、これらの手段を一体的に運用し開発効果を具現化するための包括的な事業を実施していくことが期待されています。3スキームの「連携」は、これまでも行われてきましたが、文字通り「一体化」による協力効果の具現化を目指して事業を進めていくことになります。これまでの技術協力では開発モデル作りを行った後は、先方政府の取り組みに委ねた結果、開発効果の面的拡大が限られ、協力のインパクトといった点で期待した協力効果の発現にまで至らないケースも見られました。また、農業・農村開発では行政や住民/農民側は多くの課題を抱えているのが通例です。制度の構築、人材育成、インフラ整備などの課題を解決し如何に協力の成果を具現化し貧困削減や栄養不足の解消などの開発目標を達成していくかというアプローチを採っていきたいと考えています。包括的な支援と連続的な支援がこのアプローチを進めていく上でのキーワードとなりますが、具体的には協力プログラムの戦略化を図っていく方針です。しかしながら多くの課題に対して包括的に取り組むことは重要ですが開発途上国側の受け入れ能力の問題やりソースの制約があります。また、3つの手段すべてを組み合わせて課題に取り組むことのできる国・地域も限られています。現実的には個々の国の実情に合わせて段階的、連続的に取り組んでいくアプローチを採っていくことになると考えています。

3.方針の実現に向けて

 以上の方針を具体化するため色々な制度の整備も進みました。協力準備調査の導入や事業展開計画の作成などは協力プログラムの戦略化に向けての取り組みを一層進めるために効果があります。しかし、何よりも統合された組織の中の同じ事務所で執務をしていることで戦略化に向けての取り組みが進むことを実感しています。

 一方、取り組まなければいけない課題も残されています。プログラムの戦略化には現在あるプログラムの整理が必要です。農業農村開発分野での協力はJICAが事業を実施しているほとんどの国で重点分野に位置づけられています。このため多くの事業が多くの国で行われているのが現状です。開発インパクトを生み出すためにはある程度の重点化が必要だと考えています。また、援助人材を如何に確保していくかという点も重要な課題です。ODA予算、農業・農村開発分野の事業量の減少の影響で援助人材の量が限られている現状があります。特に、英語以外の援助人材の確保が難しい現状があります。スペイン語圏などでは現地人材の活用で凌いでいますが、これでは不十分です。農業・農村開発分野は現地での地道な活動が重要な分野ですが、残念ながら専門家やコンサルタントの方々を短期間しか派遣できない現状もあります。これらの課題を解決するための制度の整備や色々な工夫が必要と考えています。

 最後に、新JICAも引き続き「現場主義」で事業を進めていきます。農村の現場で得られた経験、知見、開発の現場に根ざした意見、方針を大切にしていきますので関係者の皆様のご協力をお願いいたします。

以上


プロジェクト紹介
プレクトノット川流域農業総合開発調査

実施形態JICA技術協力プロジェクト

実施期間2005年7月〜2008年8月

1.調査の背景                                                      

 首都プノンペン周辺のプレクトノット川流域は主要な稲作地帯であるが、他流域と同様に灌漑整備率が低く、大部分の地域が天水に依存している。このため生産は不安定で、収量も低く、自家消費も賄えない農家が多数存在する。さらに、雨期には毎年のように洪水が発生し、これも農業生産性の向上の阻害要因の一つとなっている。

このような状況の下、(1)マスタープラン策定により、調査対象地域における農業生産性向上の方策を明らかにすること、(2)フィージビリティ調査により、優先度/緊急度の高い既存灌漑施設の改修に向けた事業化を支援すること、(3)洪水予警報計画を策定し、洪水被害軽減のための方策を明らかにすること、(4)調査を通じて相手国カウンターパートの計画策定、環境社会配慮等に係る技術移転を行うことを目的として、2005年7月〜2008年8月の38ヶ月間に亘り、調査を実施した。

2.計画対象地域のマスタープラン

 調査対象地域は低いコメ自給率に苦しんでいる。この解消には、灌漑面積を拡大するとともに、組織と営農支援の強化を通じてコメ生産性を改善することが必要である。「コメを中心とした農業生産性の向上」を戦略的目標に掲げ、これを達成するための基本戦略を「灌漑・排水、農業、組織の融合」とした。

 本計画では、農業開発への多様な阻害要因に対し、実質的な利益確保を目的とした事業別改善計画(13事業)及び事業別改善プロジェクトの成果を最大化するための支援プロジェクトとして課題別改善計画(14事業)の二本柱を提案した。

3.フィージビリティ調査

 上記27事業のうち、フィージビリティ調査の対象として、以下の2事業が選定され、1)技術的、2)経済的、3)社会済的持続性、4)環境配慮の観点から妥当であることが確認された。

プロジェクト名
目的
期待される効果
ローレンチェリ頭首工・取水工改善プロジェクト ローレンチェリ頭首工、アンドンスラ取水工、バットクローチ取水工の改善により、幹線水路への灌漑用水を安定供給する。 1)16,700haへの灌漑用水の安定供給と、3,285トンのコメ増産、2)頭首工・取水工ゲートの適切な操作を可能にすることによる洪水被害の軽減、3)プレクトノット川下流の灌漑地区への適切な灌漑用水の供給
灌漑技術改善モデルプロジェクト 灌漑施設の整備、農業支援、農民水利組合の強化によって、モデル地区570haでの適切な水管理とコメの増産を実現し、その効果を証明する。 農業、灌漑排水、組織の調和等マスタープランで掲げた基本理念の下、適切な水管理とコメの生産性向上が実現され、周辺地域の灌漑農業への波及効果のあるモデルとなることが期待できる。

4.パイロットプロジェクト

 マスタープランで提案された改善案に対し、農民の反応を確認することによって適切なモデルを示すことを目的として、1)重要性、2)緊急性、3)農民の参加意欲の観点から、(1)「灌漑農業圃場技術向上パイロットプロジェクト」および(2)「天水農業技術向上パイロットプロジェクト」が選定された。これらパイロットプロジェクトで実施した主な農民参加型活動は以下のとおり。

【参加型灌漑水管理活動の選定(参加型灌漑管理・開発活動)】

 組合員自らが「水管理を実施するには何が必要か」を考えることを目的に、カンボジア国内で先進的に水管理に取り組んでいる農民水利組合へスタディツアーを実施し、水管理技術だけでなく、農業全般に関わる技術的アドバイスや豊富な経験が農民から農民へ伝えられた。結果として、スタディツアーで学んだことを基に、組合員自身が水管理に必要な11の活動をまとめた。

【簡易土地所有図の作成(参加型灌漑管理・開発活動)】

 水管理を行う水田の面積及び所有者の把握を目的として、携帯型GPSで水田一枚一枚の位置を記録し、GISを利用して簡易土地所有図を作成した。携帯型GPSを用いているため、ある程度の誤差は生じるが、大まかに水田の状況を把握するには、比較的簡単で安価な方法である。

【水利費徴収活動(参加型灌漑管理・開発活動)】

 適切な水管理を行うには、農民水利組合による水利費徴収と灌漑施設の適切な運営・維持管理が欠かせない。パイロットプロジェクトでは、「水利費徴収票」を導入し、農民水利グループのリーダーが中心となって、各農民から水利費支払いの同意を得て、水利費票を作成してもらい(氏名、水田面積、支払い同意の拇印)、水利費を徴収した。水利費の金額は、農民水利組合幹部と各農民水利グループ長と話し合った結果をもとに、各農村を回って徴収額が妥当か聞き取り調査を行って決めた。結果として、水利費徴収率が30%から86%へと増加した。

【SRI導入と普及活動(参加型農業普及活動)】

 カンボジア国内で実践しているNGOの方法を採用して、肥料や農薬を使わない低投入型SRIの導入と普及を図った。SRI導入当初、農民には戸惑いが見られた。しかし、SRIのメリットを実感してもらうことを目的に、従来の農法とSRIによる稲作について、成長の度合い、収穫量の違いを比較した結果、SRIを導入した方が稲の根や茎がしっかりとしたものとなり、収穫量も多いことが農民に実感されるようになった。

【実証試験(試験的耕種法改善活動)】

 2006/08の2年間に亘り実施された実証調査では、コメの改良耕種法導入により、マスタープランの目標収量が実現可能であることを検証した。協力農家に農業生産資材を供与し、調査団が定めた栽培法(簡易正条植え)を適用してもらい、試験への協力を依頼した。結果として、マスタープランで提案した目標単位収量(2.0トン/ha)を上回るとともに、作業効率が高いという理由で評判がよかった。

5.水文調査

 洪水の被害をほぼ毎年受けている計画対象地域を考慮し、マスタープランにおいて提案した以下2件を本調査において実施し、洪水被害軽減策を明らかにした。

【水文観測体制強化プロジェクト】

 2005年にプレクトノット川流域に10箇所の雨量観測計と5箇所の水位記録計を新設し、2005年から2006年の2年間に亘り雨量と流量を観測した。これらの観測結果は洪水予警報計画調査での解析・分析に用いた。

【洪水予警報計画調査】

 既存の水文データ、及び水文観測体制強化プロジェクトで計測した雨量・流量データを基に、以下の活動を行った。

活動
成果
主要ゲート施設の操作規定の作成 プレクトノット川の主要3ゲート施設の運営状況を検討するとともに、適切な運営方法を提言した。
浸水予想図の作成 プレクトノット川の洪水条件に関する一般的な情報の把握を目的として、不等流計算及び縦横断測量の結果を用いて浸水予想図を作成した。その結果、2年洪水確率でも川岸地域は湛水すること、霞提が多数存在することで下流の洪水が軽減されることが判明した。
洪水ハザードマップの作成 プレクトノット川流域の洪水頻発地域(コンポンスプー市)をモデルに選定し、2次元氾濫解析を用いて洪水ハザードマップを作成した。ハザードマップには避難所及び避難経路を暫定的に示し、州政府職員、地域住民など関係者との議論を通して最終化することを提言した。
洪水予警報計画の検討 調査においては、1)水位観測を用いた洪水予報と2)雨量を用いた洪水予報を検討した。雨量を用いた洪水予報を実現するためには、雨量観測所とゲート施設とを結ぶテレメータ・システム等が必要となるため、追加機器や施設を必要とせず、かつ洪水対応までに十分な時間のある水位観測を用いた洪水予報を提言した。

6.環境管理基礎能力の強化

 プレクトノット川流域では、頻発する洪水、乾期の水不足、急激な工業化に伴う水需要の増加、人口増加が生じており、将来的に水資源開発が必要となる可能性がある。マスタープランでは、将来的な水資源開発を考慮し、?環境管理基礎的能力強化プロジェクト、?環境管理応用能力強化プロジェクト、を提案した。本調査では、?環境管理基礎的能力強化プロジェクトを実施し、水資源開発計画の検討をする際の留意事項をまとめ、水資源開発の実施機関である水資源気象省、農林水産省へ人材育成に係る提言を行った。

                                                                       


 
ADCA活動報告
平成20年度ADCA PCM手法(計画・立案)研修の開催

  平成20年7月7日から7月10日までの4日間に渡り、平成20年度第1回ADCA PCM手法(計画・立案)研修を開催した。また、平成20年8月22日及び8月25日から27日までの4日間に渡り、平成20年度第2回ADCA PCM手法(計画・立案)研修を開催した。モデレーター/ファシリテータ−には(株)国際マネジメントシステム研究所の花田重義氏をお招きした。第1回研修にはADCA正会員・賛助会員より合計5名、第2回研修にはADCA正会員・賛助会員より合計4名が参加し、講義とグループ演習を通じてPCM手法を用いた計画・立案の技術習得に努めた。

 本研修は、PCM(Project Cycle Management)手法の基礎知識を習得するとともに、農業農村開発を題材とした事例を用いたグループ演習を行い、PDM(プロジェクト・デザイン・マトリクス)の作成や活動計画の作成等、参加型計画手法の技術を習得することを目的として実施した。

 研修では、ADCA作成のテキストを用いてPCM手法に関する講義を受けた後、花田氏がモデレーター/ファシリテーター、受講者がワークショップ参加者となってグループ演習を行うことにより参加型計画手法についての技術を習得した。

 研修後に行ったアンケート調査によると、参加者の多くが期待通りの内容であったとの回答を寄せており、研修に対する評価は概ね良好であった。受講者数については、人数が適切であるとの回答がある一方で、もう少し人数が多い方が良いとの回答が寄せられた。少人数での研修は、講師からマンツーマンで技術指導を受けられるというメリットがあるものの、受講者間での活発な議論が得にくいというデメリットがあると考えられる。また、 テキストや演習事例について補足を要望する意見が挙げられた。今後、これらの意見を検討して次回の研修へ反映させていく予定である。

ADCA講演会の開催

 平成20年7月15日にJICA農村開発部長 小原 基文氏をお招きし、「農業農村開発の課題」について講演頂いた。

 講演では、JICAにおける農村開発の現状として、農林水産分野の事業実績や事業実施上の課題、TICAD ?における農業・農村開発分野の取り組み等について説明があった。また、今秋に予定されているJICAとJBICの統合後の組織編制等についても説明があった。その後、アフリカにおける農業・農村開発分野の動向等について意見交換が行われた。


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