No.88 2010.1
もくじ
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●●●寄稿●●●
●●●プロジェクト紹介●●●
●●●ADCA活動報告●●●
●●●青年会議だより
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寄稿

メッセージが伝わる仕事を心掛けたい

                                                                                      九州農政局曽於北部農業水利事業所

                                                                                                       塚本重光

  農業農村分野の仕事に携わっていて国内外を問わず意外と苦労するのは、ダムや水路の建設等を通じた効果なり社会貢献を、多くの人に伝え、正しく理解してもらうことの難しさを感じることです。以下に、この視点で、最近最も感動した報道と、カンボジアでのJICA専門家を通じ経験したプロジェクトのメッセージを伝える工夫とその成果(どれだけメッセージが伝わったか)について事例報告させていただき、皆様が日々携わられている海外農業農村開発の社会的貢献や意義を正しく伝え、よりよい成果につなげていく活動の一助になって頂ければと思い、本寄稿を企画しました。

1.皇后陛下お誕生日ご感想

  昨年、海外農業農村分野に関連し、最も心に残った報道は、10月20日付の「アフガニスタンで農業用水路を建設中,若い専門家がテロリストにより命を奪われてから1年が過ぎ,去る8月には故人が早くより携わっていたその工事が遂に終わり,アフガン東部に24キロに及ぶ用水路が開通したとの報に接しました。水路の周辺には緑が広がっているといい,1971年,陛下と御一緒にこの国を旅した時のことも思い合わせ,やがてここで農業を営む現地の人々の喜びを思いつつ,深い感慨を覚えました。」との皇后陛下の1年を顧みてのご感想報道です。ADCA会員の皆様は、忙しく海外と国内の行き来をし、海外での情報収集に力点をおかれることもあり、この報道に接していない方もおられるかもしれませんので、この紙面を借りて、是非、紹介させて頂ければと思います。

ご感想全文: http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h21sk.html

  私事で恐縮ですが、このご感想報道を読んで、ダムや水路等灌漑施設の建設を通じて途上国の貧しい人々の生活を向上させたいとの農林水産省への志望動機を思い出し、幸いにも海外関係の仕事に従事できた充実感、そして、ダムや水路の建設を通じて、やがてそこで農業を営む多くの人々の喜びを容易に誰にも想像してもらえる仕事をしたいとの思いを新たにしたという点で、私にとって大変印象に残るメッセージでした。

2.カンボジアでの取組事例

2-1 メッセージを伝える背景

  平成18年6月から約3年4ヶ月、カンボジアで実施されている灌漑技術センターフェーズ2プロジェクトのJICA専門家として活動する機会に恵まれました。灌漑技術センターフェーズ2プロジェクトは、水資源気象省及び州の水資源気象局の水資源・灌漑技術者の人材育成をはかるプロジェクトで、人材育成が順調に進む中、研修等を受けた技術者によって人材育成の成果がどのように活用されているのかというテーマが関係者より提示されるようになりました。カンボジアの行政組織が抱える課題として、公務員の給与が低いこと(50ドルに満たない月給)や活動予算が少ないことが恒常的にあるなかで、果たして、技術者の能力向上が、各州での灌漑プロジェクトの形成や実施に、そして、それが農業生産の増や農民の生計向上等にどれだけ貢献しているのかという問いかけです。ワークショップ等を開催し、活用状況(6割強は研修成果を活用との回答)と課題を整理・分析すると、調査用資機材の不足、調査・計画・実施設計のための活動予算の不足や実施設計後の事業実現のための資金不足など、カンボジア政府の財政難に主として起因する問題が確認されました。関係者で議論し、更に活用状況を高めていくため、カンボジア政府のみならずドナー等への広報活動を実施し、政府資金に加えてドナーの援助や資金(含む日本政府資金)を人材育成や人材育成の広範な活用に繋げていこうということとなりました。

2-2 プロジェクトメッセージを伝える工夫(カウンターパートのプレゼン能力の強化)

  政府やドナーへのプロジェクトの必要性と効果を広報すること(プロジェクトメッセージの発出)がプロジェクト活動の重要な柱と位置づけ、カウンターパートがこの広報に主体的に取り組むことができるよう主として以下の工夫を行いました。

1) カウンターパートが活動成果等をパワーポイントで取りまとめ、カウンターパート会議(1~2週間に1回開催)で発表

2)プロジェクト会議(1ヶ月に1回開催)、マネッジメント会議(3ヶ月に1回程度開催)や合同調整委員会(6ヶ月に1回程度開催)等の会議を活用し、PPの修正及びプレゼン能力の強   化 を図り、カウンターパートが水資源気象省等政府高官へ活動成果等を簡潔に報告

3)カウンターパートが策定されたPP資料をドナーのニーズに合わせ随時修正しプレゼン


2-3 伝えたプロジェクトメッセージとその成果例

(1)カンボジアにおける灌漑・水資源開発分野の人材育成の必要性とその対策(ビジョン)を以下にとりまとめ情報発信、灌漑技術センターを活用した人材育成への参画をドナーに広く                                呼びかけました。ドナーが支援する灌漑・水資源開発にかかる人材育成は灌漑技術センターに集中して実施することが農業と水分野にかかわるドナー間で確認され、ADBやAFD が灌漑技術センターへの支援に着手するようになりました。

(2) GIS研修の成果として、灌漑インヴェントリーマップ等の成果を水資源気象大臣にプレゼン。大臣はインヴェントリーマップに関心を示し、24州の局長に州ごとの灌漑GISマップの作成を指示するとともに、リモートセンシング・GISにかかるワークショップと研修を開催、24州にGISデータ加工・向上のためのラップトップコンピューターを配布するなど、大臣自らが各州の灌漑インヴェントリーマップ作成の陣頭指揮を取るようになられました。

(3)ドナーが灌漑分野への支援を検討する際の懸念事項として、建設された水路の維持管理や末端水路の整備に農民が参加し水管理をきちんと実施できるのかというものがよくあります。カンボジアにおいても、同様の懸念は存在しますので、ドナーの支援を受けやすくするためには、この懸念を払拭できるようなメッセージを発出することが大切です。このため、灌漑技術センターでは、3つのパイロットサイトでの活動成果を踏まえ、こういう手法で実施すれば、こんなに農民参加型水管理がうまくいきますよというメッセージを発出することとしました。パイロットサイトでの農民の水管理への参加が思いのほかよかったこともありますが、このメッセージに呼応し、関係ドナーがパイロットサイトの視察を実施し総じて成功しているとの正の評価をうける事が出来ました。また、関係ドナーの口コミもあり、カンボジア政府要人、テレビ局等報道関係者や同分野で実績のあるNGO(GRETやSEDACなど)などが、パイロットサイトを視察するようになり、以下のカンボジア政府やドナー予算取得への動きに繋がっていきました。

・3つのパイロットサイトでの参加型水管理等の成果を水資源気象省、経済財務省等へプレゼン。3地区の幹線水路から末端(3次水路レベル)までの灌漑施設の整備改修事業への    予算手当についてカンボジア政府の承認を得る

・JICAは灌漑分野への円借款の供与可能性を調査開始

・ ADB水資源管理セクター開発計画プロジェクト(WRMSDP)との連携

・日韓連携協力の活動サイトとしてコンポンチャムの灌漑施設の改修が採択 など

(4)気候変動問題に国際的な関心が高まっていますが、各種調査等の結果、アジアで気候変動による影響を受けやすい国の一番がフィリピン、2番目はカンボジアとも言われるようになっています。この気候変動問題に関して、カンボジア政府は2006年に気候変動適応対策計画(National Adaption Program of Action to Climate Change (NAPA))を取り纏めていますが、この計画において、気候変動による影響がカンボジアの基幹産業である農業生産に与える影響が大きいとの整理の下、灌漑地域の拡大と水資源の管理を気候変動適用対策の最優先プロジェクトに位置づけ重点的に実施し、気候変動により生じうる災害被害(干魃及び洪水)の軽減を図ることとしています。このような中、カンボジアにおける灌漑・水資源開発分野の具体的な適応策を例示し、気候変動問題に貢献できることをアピールすることは灌漑技術センターの役割を正しく認識しもらう上で大切な活動ととらえ、以下の活動成果を取りまとめ、灌漑技術センターが開発・推奨する農民参加型手法を適用させることにより、脆弱なカンボジアの水資源の水利用効率が高まり、気候変動問題に貢献できる有効な手法であることを発信しました。これは、まだ目に見える成果にはつながっていませんが、ドナーの感触も上々で、同分野への支援に関心があるドナーの支援を受けて、灌漑施設の農民による水管理を普及させることが期待されます。


プロジェクト紹介

平成19年度 東ティモール民主共和国マリアナI灌漑施設復旧改善計画

~ソフトコンポーネント活動を事例とし~

実施形態:無償資金協力

実施期間:2007年9月~2009年3月

1.事業の背景                    

 東ティモール国の農林水産セクターには、全労働人口の70%以上が従事し、経済・社会的に大きな役割を担っている。しかし、主食である米の食料自給率は60%程度に留まり、現在の国内生産量で今後も推移した場合、更なる輸入が必要になる。また、1999年以降の独立紛争や洪水被害により、各地の灌漑施設では機能の低下や老朽化が進行し、米の単収(モミ)は1.2~2.0t/haに留まっている。各ドナー国や国際機関により灌漑施設の改修が進められてきているが、未改修の施設があり、安定的な農業用水の供給が出来ずに米の生産に支障をきたしている状況にある。

2.事業の目的                    

 事業対象地区であるマリアナ?灌漑地区は、1972年に固定堰が建設され、受益地の拡大に合わせて1986年に固定堰の嵩上げが行われた。しかし、1992年の洪水により同嵩上げ部が流失し、安定的な灌漑用水が確保できない状況となった。

 本事業は、流失した固定堰の嵩上げ部分を復旧するとともに、老朽化した灌漑水路を改修し、末端灌漑地区まで灌漑用水を適正に配分することを目的とした。また、設立間もない水管理組合に対し、組織運営と水管理に係るソフトコンポーネント活動を実施し、水管理組合の組織強化を目的とした。

プロジェクトの概要

  【地区名称 】ボボナロ県マリアナ地区


  【事業対象】 対象(1,050ha)、受益(1,500世帯)

  【河川規模】 流域面積(19.8km2) 計画洪水量(310m3/s)

【計画取水量】 .37m3/s()0.46m3/s(乾期)

【復旧固定堰】 フローティングタイプ(強高度コンクリート)、堰幅(17.1m)、堰高(5.4m)

【取水施設】 土砂吐、取水ゲート、沈砂池、水路取水ゲート

【水路施設】 幹線(1,500m)、2次水路(10,200m)

【関連施設】 護岸工、水門管理棟、機材収納庫

【ソフトコンポーネント】 組織運営指導、水管理指導

ここでは、水管理組合の組織運営と水管理施設の指導に係るソフトコンポーネント活動の取り組みを中心に紹介する。

3.ソフトコンポーネントの成果目標       

 ソフトコンポーネントの活動の対象者は、先方政府機関の灌漑技術者、水管理組合幹部、各農作業相互単位グループの農民リーダーと農家、水管理施設のゲートキーパー等である。活動の成果目標は、以下の通りである。

(1) 組織運営指導に関わる分野

・  灌漑施設の適切な運営・維持管理の必要性を農民が理解すること。

・  支払い可能な水利費徴収額と徴収方法が決定されること。

(2) 水管理指導に関わる分野

・  土砂吐、取水口、沈砂池および水路取水ゲートが適切に連動操作されること。

・  3次水路まで用水が配水されること。

・  組合員が活用可能で実践的な水管理マニュアルが作成されること。

4.ソフトコンポーネント活動            

 前述の目標を達成するために、14個の活動を計画し実践した。

(1) 水管理組織の運営指導の一例

ワークショップを開催し、施設の改修事業が完了した後は、水管理組合(Water Users Association「以下、WUA」)の責任のもとで管理する必要があることを説明。水管理組合幹部、村長、農家(約100名)が参加したワークショップでは、自由討議時間を使って、現在の問題点、水管理組織の役割、水理費徴収額などについて活発な議論が行われた。

(2) ゲートの操作指導の一例

 政府機関の灌漑技術者、WUA幹部、農民リーダー、ゲートキーパーを対象に、固定堰部の取水ゲートの操作指導を実施した。取水ゲートの操作方法に加え、持続的な利用にむけた、土砂吐ゲートや沈砂池の維持管理の重要性と管理方法について指導を実施。

(3) 水管理マニュアルの作成

WUAの組合員が活用可能なように、実践的な水管理マニュアルを作成した。マニュアルには、固定堰の取水ゲートと各水路の分水ゲートに関する具体的な操作方法、ゲートの連動操作の必要性、灌漑施設を維持管理することの重要性についても掲載した。施設の所有意識を高めるべく、灌漑の目的についてのスローガンを農家自身により決定した。

5.成果を持続・発展させるための課題と提言     

 本事業の成果が、将来にわたって継続的に発現し、プロジェクトの目標が達成することを目指すべく、先方政府に対して以下の四つの提言を行った。

(1)  固定堰取水施設の土砂吐ゲートの持続的な管理

(2)  固定堰の水門を操作するゲートキーパー給与支払いのための水利費徴収

(3)  水利費徴収のための作付面積の確定

(4)  公平な水配分のための継続的な水利用状況のモニタリング


 
ADCA活動報告

<研修報告>

平成21年度ADCA技術者研修の開催

今年度、当協会では農業農村開発に携わる技術者の資質の向上を目的とし、以下の技術者研修を開催した。

【第1回】「PCM手法(モデレーター/ファシリテータ)」研修 (平成21年8月10日から8月12日まで3日間)

農業農村開発プロジェクトでは、住民参加型のプロジェクトが主流となっており、住民を含むプロジェクト関係者による合意形成を図った上で、プロジェクト実行・評価する場面が多くなってきている。このような現状を踏まえ、今年度第1回目の研修はPCM手法におけるモデレーター及びファシリテーター技術の習得を目的に実施した。尚、本研修にはADCA正会員より合計6名が参加した。

【第2回】「PCM手法(計画・立案)」研修 (平成21年9月14日から9月17日まで4日間)

第2回「PCM手法(計画・立案)」研修にはADCA正会員より合計12名が参加し、講義とグループ演習を通じてPCM手の計画・立案の技術習得に努めた。本研修は、PCM手法を活用したより良いプロジェクトの計画・立案を行えるよう、講義及び演習を通じてプロジェクト・デザイン・マトリクス(PDM)作成までの一連の作業過程の習得を目的に開催した。

【第3回】「アフリカにおける農村開発のための文化理解と留意点」研修 (平成21年10月14日から9月16日まで3日間)

 第3回研修は、アフリカの人々の歴史・文化を理解するための調査方法および課題解決に向け、効果的な実践方法を習得することを目的に研修を行った。研修には合計5名が参加した。アフリカにおける農業農村開発の現場においては、アジアの成功例を導入してもうまくいかないことが多い。この要因はアジアとアフリカの文化の相違によるものであるが、今日、開発の際の文化配慮としては、ジェンダーに関する配慮以外、特に体系的に検討されていなのが現状である。そこで、アフリカの人々の歴史と文化を踏まえ、開発対象地区の開発課題にどのように対応すべきかの基本的情報と留意点を学習し、開発目標に効果的に到達するための調査法を理解することを目的に本研修を開催した。

【第4回】「SWOT分析/マインドマップ手法」研修 (平成21年11月16日から11月18日まで3日間)

 第4回研修は、PCM手法よりも迅速に解決策を見出したい場合に有効な手法である「SWOT分析」及び「マインドマップ手法」の習得を目的に行なわれた。「SWOT分析」は組織の置かれた状況を内部環境(強み、弱み)、外部環境(チャンス、脅威)に分け分析し、各解決策について評価基準を設定し解決策を見出す手法である。一方、「マインドマップ手法」は、創造性開発のための手法として活用されている手法であり、途上国において、ロジカルな発想を見出す際有効な手法である。

【今年度研修を終えて】

研修後に行ったアンケート調査によると、参加者の多くが期待通りの内容であったとの回答を寄せており、研修に対する評価は概ね良好であった。受講者数については、今回の研修は内容から考えて5~12人と少人数と設定が適切であったという回答が寄せられた。少人数での研修は、講師からマンツーマンで技術指導を受けられ、また、受講者間での親密なコミュニケーションを得られるというメリットがあると考えられる。また、テキストや演習事例について補足を要望する意見も挙げられた。また、今後の研修内容としては、プロジェクトの費用対効果、無償・有償資金業務の知識、技術士論文講座などの要望が挙げられた。これらの意見を検討して次回の研修へ反映させていく予定である。


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