2003年巻頭言集

No.68 2003.1  (社)海外農業開発コンサルタンツ協会   会長 佐藤 昭郎
2003年の年頭にあたって

ADCA会員および賛助会員ならびに関係機関の皆様、明けましておめでとうございます。

 2003年が皆様方にとりまして良き年であるよう心から祈念いたします。又、旧年中のADCAの活動に対しまして一方ならぬご協力ならびにご支持を頂き、深く感謝申し上げますとともに、本年もご指導ご鞭撻を賜りますよう心からお願い申し上げます。

 偖、日本の経済が低迷したまま新年を迎えたことになりますが、一日も早く経済の復興を願わずにはいられません。現今の経済の影響を受け、2003年のODA予算案は、2002年度から更に約5%減り、4年続けて減少することになります。又々、国際社会を失望させることになるのではないかと心配いたします。ODAがすべてではないもののこれまでいろいろな方法によって途上国との間で営々と築き上げてきた友好関係がODAの減少によって脆弱化し、ひいては日本の国際的プレゼンスが低下するようなことがないようにしなければならないと思います。こうした意味からもADCAをはじめ関係コンサルタンツ協会は国際的活動の強化推進に努めることが益々必要となってきています。

 幸い、2003年は日本の国際的関心の高さ、国際的リーダーシップを発揮すべき年になることが期待されます。昨年のヨハネスブルグの地球サミットでは水問題が重要な位置付けにあることが確認され、引き続き国際淡水年とされている今年、京都、滋賀、大阪の淀川流域を中心として、3月16日から8日間にわたり第3回世界水フォーラムが開催されます。このフォーラムではADCAが最も関心を払っている農業、灌漑、水資源に関わる事柄が多数の関係者によって討議され、21世紀の水問題に画期的な事例を生み出すことが期待されています。このため政府をはじめとする関係機関及び関係者は準備の最終段階に入り大変多忙な毎日を過ごされていることと想像しますが、無事目標を達成できるよう祈っております。

 こうした国際的な動きと対照的に私どもが関わっております海外援助の世界においては国内の制度、組織が大きく変わろうとしています。この変更はADCAも含めた関係協会およびその会員に少なからぬ影響を与えることになるのではないかと思われます。例えば、関係機関によるODA大綱見直しの動きやJICAの独立行政法人化に伴う業務や手続き、および組織の変更等が挙げられます。

 途上国援助においてコンサルタンツは蓄積した知見を基に途上国の発展のために必要な技術やノウハウの提供、人材育成や組織の強化等極めて重要な役割を果たしてきています。こうした実態を見直し、国内のODA論議においてもコンサルタンツの重要な役割を尊重し、その機能をフルに活用できるような措置が講じられることが必要と思われます。又、同時に各コンサルタンツ企業においてもこれまでの支援方法や技術に甘んじることなく、ODAが有効に作動し、日本の国際プレゼンスが向上し、途上国の発展に尚一層貢献し、かつ国際的活動の強化推進に資するよう技術の研鑽や組織、体制の見直しあるいは新技術の導入等に努めることも必要であると思われます。

 ADCAにおきましてもこうした事態を十分認識し、関係機関及び関係者とともに2003年が意義深い年であるように活動していきたいと思います。

平成15年1月


No.69 2003.4  第3回世界水フォーラム上級アドバイザー, (社)海外農業開発コンサルタンツ協会  専務理事 的場 泰信
世界水フォーラムを終えて

3月16日から23日の8日間行われた第3回世界水フォーラムはADCA会員の皆様のご協力もいただき無事終了することができました。ご協力いただきました皆様に改めて感謝し厚く御礼申し上げます。

8日間の期間中過去最多の2万4000人がフォーラムに参加し、当初の予想をはるかに上回る参加者を得ることができました。京都、滋賀、大阪の各会場ではフォーラム期間中、合計351の分科会が開催され、水にまつわる様々なテーマについて活発な議論が行われました。分科会での議論の成果の一部は、22日、23日に行われた閣僚会議に反映され、会議では29項目に及ぶ閣僚宣言 - 琵琶湖・淀川流域からのメッセージ - が167カ国、43の国際機関によって採択されました。閣僚宣言には、水は持続的な開発・貧困緩和に不可欠なものであること、そのために民間部門を含む全ての資金調達手段を考慮すること等が盛り込まれました。総合的な水資源管理、水利用の効率化では、世界の水利用の70%を占める農業用水にも焦点があてられ、多様な農業形態を踏まえた農業用水の効率的な利用の推進が確認されました。

また21日に農業用水を所管する各国大臣とFAO(国連食糧農業機関)の代表出席の下に行われた「水と食と農」大臣会議では、昨年のヨハネスブルグ環境サミットで合意された水に関する目標の実現に向けた取り組みについて議論がなされました。会議では、食糧の安全保障と貧困軽減、持続可能な水利用、パートナーシップの強化が重要な課題とされ、農業用水の管理の近代化に向けて財源や投資を活用・増加させることや、水資源循環の保全、農業用水の多面的な役割と価値の評価を行うことのほか、水利用者参加による農業用水管理の改善や国際協力の推進が提唱され、大きな成果を得ました。これら提唱された水と農業に関する事柄は、両者に携わる我々ADCAの活動に大きく影響を与えるものであると思われます。

水に関する議論は今後、本フォーラムで解決をみなかった問題も含めて、今年6月に予定されているG8サミット(エビアンサミット)、あるいは本年9月に東京で開催されるTICAD3へと場所を変え、更には今後の世界の水会議で一層議論を深めていくものと思われ、私自身もその議論の展開と成果に期待しております。

平成15年4月


No.70 2003.7  (株)パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル 代表取締役社長  前   迪

ODAの将来と開発コンサルタンツの役割

ODAの目的は何かというと、「日本の安全と繁栄を確保するための外交手段」と言われますが、安全と繁栄とは別の言い方で言えば「日本という国の安全保障」ということです。安全保障とは極めて広義の概念で、紛争やテロリズムに巻き込まれる脅威を排除することは勿論のこと、他の国との良好な経済・貿易・文化交流を確保し、さらには地球全体の自然環境や生態系を保全する、といった内容まで含むことでしょう。そして日本の安全保障は基本的に開発途上国と共存共栄することによって確保されるものと考えると、開発途上国との共存共栄には開発途上国の開発を支援する必要があります。すなわち、開発途上国の「社会・経済活動を活性化する持続的努力」を支援することであります。

開発途上国の経済開発支援の点では、グローバリゼーションの下で工業化や国際化を目指して経済を活性化する努力が基本的な課題であり、経済活動の活性化にはインフラの整備が基本的に重要です。この意味では、世銀の貧困削減戦略など、若干、社会開発重視の環境の中で、継続して開発途上国のインフラ整備を支援するODAであって欲しいものと考えます。ただし、開発途上国のインフラ整備の環境も大きく変化しています。中央集権的な行政システムや比較的潤沢な財政の下でインフラ整備を進める環境が急速に変化しています。地方分権や民活を考慮した整備手法が求められる環境の中で、開発コンサルタンツもクライエントのニーズを的確に把握して、最適なソリューションを提案できるソフトとハードが融合したプロフェッショナル・サービスが求められる時代になって来ました。物を作る技術サービスだけではプロジェクトのライフサイクルに亘って費用対効果を最大化することが出来ず、プロジェクトの計画から完成後のO&Mを含めたプロジェクト・サイクル全般に亘るサービスに対応できる能力を持つ必要が出てきます。

一方、多くの開発途上国にとって社会開発支援は「人間の安全保障」といった観点からも必要な状況にあります。市民レベルの紛争、貧困、恐怖からの解放や基礎的な医療、教育サービスなど、基本的な人権の確保の課題、すなわち「人間が最低限人間らしい生活を送れること」を追求する必要があります。人間の安全保障は経済的に自立した民主主義国家においては満足されるべき基本的権利ですが、多くの開発途上国ではガバナンスの問題、あるいは多様な民族、宗教、文化、地理などが原因して、必ずしも満足されていません。多くの国民が先に述べたような紛争、貧困、差別、恐怖、医療、教育などの基本的な問題で極めて困難な状況に置かれているのが現実です。このため、地球共同体の人類が人間の安全保障という共通の価値感を共有するためにも、日本のODAは開発途上国の社会開発支援に向う必要があるものと考えます。ただし、人間の安全保障を支援するという意味では、サービスの対象は国よりはむしろ分権化された地方政府、コミュニティ、市民といったレベルで対応する方が高い効果が得られる場合も多くなるでしょう。また、持続的な社会開発を支援する目的では、計画から実施・運営を含めたライフサイクルに亘るプログラム化された長期で複合的なサービスにも開発コンサルタンツは対応する必要が出てきます。

開発途上国の持続的な開発を支援する意味で、ODAはこのような経済的自立を支援する経済開発と人間の安全保障に根ざした社会開発を、自然環境の保全に配慮しつつ、その国、その地域、その市民の発展段階・意識や固有の条件を考慮しながら、バランスのとれた形で実施する必要があるということです。従来の要請主義から発展して、国別援助計画などをベースとしてODAが考えられるとすれば、このバランスと相乗効果の問題が基本的な課題として戦略的に考えられるものと思われます。PCIは総合的な開発コンサルタンツとして多様な経済開発にも社会開発にも幅広く対応できる能力を高める努力をするつもりです。

平成15年6月


No.71 2003.10  株式会社ドーコン 代表取締役社長 柳川 捷夫
技術と社会

快適な生活環境や産業基盤の整備を行う社会資本整備に深く関わるコンサルタント業務において、技術者と市民の接点が拡大しており、技術と社会の関係について深い意識が求められていると考えるところです。

この技術と社会の関係について、フランスの哲学者であるベルナール・シュティーグレーは、人間は石器の時代から自分の身体の外部にある技術に依存して生きてきたことを指摘、その時々の技術が社会のあり方を規定し、技術の進歩に既存の社会体制が合わなくなったときに社会変革が起きるとしています。近年の情報通信技術の発展による記憶の電子化、世界的な情報通信網、メディアを通じた意識形成などは、大きな社会の変化の端緒として私どもが実感しつつあるものです。彼の警告する「人間の主体的な活動と考えられていた意識や思考の過程までもが外部化された技術に規制され、人間が社会活動のなかで隷属的な存在になってしまう危険」は、コンサルタントに社会・市民との接点の重要性を改めて認識させるものです。

農業分野における遺伝子工学の応用の拡大も、生産過程のみならず社会への大きな影響が考えられるものであり、農業農村開発に見られる住民参加(住民意思の反映)、責任説明、そしてより効率的、公正さを持った計画づくり(技術の応用)が、シュティーグレーの指摘する技術と社会の摩擦・乖離を緩和する極めて有効な手立てと考えられます。このようにコンサルタントはモデレーターとしても社会貢献を果たす存在であり、期待されているものと思っているところであります。海外の開発プロジェクトでは、住民参加による地域の合意形成の取り組みが早くから行われ、また開発を進める実際の経験を通じて成熟してきた開発と女性における、女性が受益者から開発の担い手(参加者)とする考え方に見られるように、社会(“人間”)に焦点をあてた技術(“開発”)の有り様が追求されています。日本の地域社会の開発で培ってきたコンサルタントの技術・経験が、開発途上国での“人”を通しての技術協力に大きく寄与する一方、海外での経験が国内における仕事に役立つことも重要であります。社会・経済環境に大きな差異がある我が国と発展途上国ではありますが、技術と社会との関わりを踏まえたコンサルタント技術者の視点は共通したものと認識されます。

技術を通じて人々が暮らしやすい環境を創出することを責務とするコンサルタントとして、技術者自身が地域の人々とのインターフェイスを担い、地域生活の発展に貢献するものとなるよう、なお一層の技術向上の努力をしていく所存であります。

平成15年10月



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