2005年巻頭言集

No.76 2005.1  (社)海外農業開発コンサルタンツ協会   会長 佐藤 昭郎
2005年の年頭にあたって

ADCAの会員および賛助会員の皆様ならびに海外援助業務に携わる政府および関係諸機関の皆様、明けましておめでとうございます。2005年が皆様方にとりまして良き年であることを心からお祈りいたします。又、旧年中のADCAの事業活動に対しまして一方ならぬご支持、ご協力およびご厚誼を頂きましたことにつきまして深く感謝申し上げます。本年も倍旧のご指導、ご鞭撻を賜りますよう心からお願い申し上げます。

さて、本年はODAが半世紀を超え、いろいろな課題に向けて対処していくことが期待される年ではないかと思います。世界の水問題を議論した第3回世界水フォーラムは2年前のことですが、今年は第4回世界水フォーラムに向けた主要な国際活動が活発に展開される予定です。これまでに積み残された課題がさらに深化した形で議論され、課題解決に向けた新たな手法が提起されることも考えられます。日本国内ではアジアモンスーン地域の特殊性は乾燥地を中心に考えられている水利用とは異なることを認識すべきではないかという考え方が次第に固まり、このことを世界に向けて提起する動きが見られます。ADCAの活動もこうした動きを認識し、最も関わりの深い水資源の開発保全問題、水利用の中心である農業開発と農村整備の問題、事業の円滑な実施と住民参加問題等々において新たな方策を見出す時に来ていると考えられます。特にこれまで途上国で積み上げてきた経験、知識、技術を生かし、蓄積されたノウハウを駆使し、こうした動きに関して関係機関とも協力して新たな取り組みを始めることにしたいと思います。

第3回世界水フォーラム開催中に起こったイラク戦争は終結宣言後も戦闘が繰り返され、状況がはっきりしないまま、選挙の実施等復興に向けた活動が進められています。イラクの復興については多数の国が支援していますが、復興事業が先行し、開発援助事業は今後に残された形となっています。いわばこれまでアフガニスタン等で進められている開発援助を含めた復興支援とはやや様相が異なる複雑な形となっています。復興支援にはODAが使用され、日本政府の復興支援はイラク支援の50億ドルをはじめとして膨大な額のODAが当てられています。このため年々減少する限られたODA予算の使途も従来とは大きく異なっていくことが予想されます。又、政府開発援助に関する中期政策(案)が発表され、人間の安全保障に関する視点が筆頭に挙げられこれまでになく強調されています。この中期政策(案)が発表される以前にJICAが同様に人間の安全保障を前面に出した支援を今後はJICA援助の柱として進めていくことを明言しています。又、途上国からのニーズを直接把握するために現地ODAタスクフォースの活用を強調しています。

こうした政策はこれまでの対外援助の経験を顧みた結果として、援助を効率的に行えなかった、あるいは現地のニーズの汲み上げ方が不十分であった、さらにはインフラ整備が多すぎた等々の理由が挙げられています。近年、ハードよりもソフトを重視すべきだという意見や国際潮流を受け入れて日本のODAの内容が変化してきていると言えます。

ODAの利用がその時々の国際情勢や政府の立場によって変わることはやむを得ないとしても、ODAが途上国の経済レベルの向上、ひいては国民生活水準の向上に向けられるべきという点は援助の普遍的な目的ではないかと思われます。又、援助に関わる行動主体の中でコンサルタンツはこれまで長期間にわたり現地のニーズを適切に把握し、援助の促進や途上国とのコミュニケーションの円滑化、途上国の技術向上や経済基盤の強化に多大な貢献をしてきた唯一の活動的行動主体であり、その経験や知識、ノウハウをこうした変化しつつある状況に対しても柔軟に生かしていくことが求められていると思われます。

いずれにしても、ADCAが世界の動きに的確に対処し、かつ日本の援助の推進にこれまで以上に寄与できるよう関係者の皆様および関係機関とも協力しながら2005年が有意義な年となるように行動していきたいと思います。

平成17年1月


No.77 2005.4  農林水産省農村振興局設計課海外土地改良技術室長 国安 法夫
復興支援への取組み

昨年12月に発生したインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波は、震源に近いスマトラ島北部のアチェ州を中心に30万人を超える死者・行方不明者を出すとともに、人々が生活してゆく上で必要不可欠な社会基盤にも深刻な打撃を与えるなど、未曾有の大災害となりました。

洪水・台風・地震・干ばつなどの自然災害は、毎年のように世界各国で発生しており、特に開発途上国では災害に脆弱な貧困層が大きな被害を受けています。これが農業農村の持続可能な発展を阻害する要因の一つとなっており、大規模な災害からの復興と防災対策が国際社会の大きな課題としてクローズアップされています。

今回の被害に関しては、ADCA会員の皆様方のご協力の下、早期の農業被害実態と相手国の支援ニーズ把握の重要性に対応するため、1月上旬から4回のプロファイ調査団をインドネシア、スリランカ、タイの3ヶ国に派遣するとともに、去る2月28日には外務省、農水省、JICA、民間企業など多くの関係者の参加を得て、被災状況の把握と我が国の経験・技術を生かした効果的な支援方策について幅広く、有意義な意見交換をすることができました。これもひとえにADCA会員の皆様方のご協力の賜物と、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

復興支援の取組みについては、?農業被害実態把握のための調査団派遣のみならず、中長期的な被災地の復興に向けて、?農業・農村に関する復興計画の策定と農村インフラの復旧による社会基盤の再構築、?破壊された農村地域における住民参加型計画策定などの手法を活用した自立的な地域社会の再構築(コミュニティーの再生支援)、?防災に関する専門家の育成と災害が発生した場合に直ちに対応可能となる災害復旧制度等の整備、といった4つの考え方を基本に、中長期的な視野に立った支援に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。

農村振興局では現在、ODA大綱の改定と本年2月に策定された中期政策を踏まえ、新たな時代に対応した「農業農村開発協力の展開方向」の見直しを進めております。この見直しにおいては、ODA大綱等に追加された新たな概念である「人間の安全保障」、「政策協議の強化」、「国民参加の拡大」とあわせ、自然災害により大規模な被災を被った国々や紛争後の平和構築が必要な国々に対する復旧・復興等に資する取組みについても重点課題として位置づけて参りたいと考えております。

ミレニアム開発目標のトップに位置する貧困削減目標を達成するためには、農業農村開発分野における力強い、継続的な支援が不可欠です。ADCA会員の皆様方におかれましては、農業農村開発協力の重要なアクターの一人として、これまで以上に官民一体となったODAの推進に御協力いただきますようお願い申し上げます。

平成17年3月


No.78 2005.7  (社)海外農業開発コンサルタンツ協会 専務理事   安村 廣宣

ODAとコンサルタントの役割

6月1日付けで専務理事に就任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。日本のODAについては、国際社会からはその国力に相応しい貢献を行うよう高い期待が寄せられていますが、厳しい経済・財政事情のためODA予算はここ数年減少しており、ADCAにとっても厳しい風が吹いています。このような風に立ち向かい新たな道が開けるよう模索していきたいと考えております。

6月1日の午後、早速JICAとコンサルタントとの勉強会が開催されましたので出席したところ、「技プロ」「在外主管」等聞き慣れない言葉が飛び交い、いささか当惑してしまいました。「十年一昔」と言いますが、近年は変化が激しいこともあり、私がODAと直接には関係のない部署に数年間ほど勤務していただけで、ODAを取り巻く状況は大きく様変わりしていたのです。改めて新ODA大綱等を読み直し、先輩諸兄のお話を伺いながら、就任後1週間に考えたことを以下に述べてみたいと思います。

我が国の開発援助の4つ重点課題である貧困の削減、持続的な成長、地球的規模の問題への取組、平和の構築という課題のいずれも、関わりの濃淡はあるものの農業農村開発分野での協力と関連しています。貧困の問題は、農業農村の開発なしには解決しません。私もモザンビークで少し関わりましたが、紛争後に難民と除隊兵士を農村部へ定住させるためには、地雷の除去とともに農業農村開発が不可欠な要素でした。途上国の持続的な成長には、灌漑施設や農村生活環境等の経済社会基盤への支援が必要です。食料、水、砂漠化の防止、自然環境保全などの地球的規模の問題にも農業農村開発は関わっています。これらの開発協力を進めていく上で、コンサルタントは主要なアクターの一人であり、ますますの活躍が期待されています。

開発援助の考え方はドナーにより大きく異なります。欧米諸国とは異なり、我が国は援助の基本方針として途上国の自主性を尊重し、その自助努力を支援してきました。新ODA大綱では政策協議が強調されていますが、途上国のオーナーシップを尊重し援助は途上国からの要請に基づき行われるという原則は従来通りです。開発協力の主要なアクターの一人であるコンサルタントが、例えば開発協力を通じて途上国と人的な繋がりを深め、途上国の開発政策や援助需要をつかみ、自らの知見と技術力を駆使して新たな開発協力案件の形成に大いに貢献できる場合が往々にしてあります。

援助関係者の中でコンサルタントは、その技術力と案件の総合監理力において他に抜きん出ています。セクターごとに援助のプログラムが作成され、より戦略的、効率的に援助を行おうとするなどODAを巡り変化が見られる昨今、優良な案件を形成するためにコンサルタントに求められている課題は、政策立案能力と技術応用力をより高めることだと思います。技術応用力には、世界水準の技術を現地に適応させることと現地の技術や経験から学び協力の持続可能性を確保するという両面があります。会員の皆様方が切磋琢磨して益々ご活躍することを期待申し上げるとともに、皆様方の事務局として微力ながら努力してまいりたいと考えています。

平成17年6月


No.79 2005.10  東洋大学国際地域学部 教授 ((前)国際連合食糧農業機構 農業局土地水開発部 部長) 吉永 健治
先進国の援助態様とコンサルタントの戦略

過去10数年来、途上国に対する農業への投資−国内及び海外−の減少は歯止めがかからない。一方、この間、多くの国際会議、たとえばFAO世界食糧サミット(1996年)、世界持続可能開発サミット(2002年)、数次のG8サミット、第3回東京アフリカ会議(TICAD3、2003年)、第3回京都世界水会議(2003年)、国連持続可能開発委員会(CSD-13、2005年)、OECD閣僚理事会(2005年)、そしてアフリカをはじめとする多くの地域会議において、農業、土地、水などの自然資源の開発、管理に対する投資の必要性に関する言及がなされている。ここで、農業投資への減少とその必要性に対する言及とのギャップはなぜ埋められないままなのかという疑問が生じる。この疑問に対する回答を探すのは困難かもしれない。このことは過去このギャップは埋められることなく今日に至っていることからも想像できる。この狭間の中で、この分野を担当するADCAコンサルタントグループも受注の減少に直面していることも事実である。しかし、このギャップに対する回答探しを行うことが、現状を乗り越えるためにどのような行動を起こすべきかを探る手がかりになるのではないだろうか。

農業への投資の減少は、途上国のプライオリティが必ずしも農業ではない、農業への投資はリターンが少ない、環境問題から大規模開発が減少、民間投資を誘発するインセンティブが薄い、など援助国と被援助国との間の投資に関するミスマッチに起因していることも事実である。ここでは、先進国や国際機関における援助態様の変化に注目したい。1970‐80年代における援助形態は、どちらかと言えばサプライサイド型で、一方的にコンサルタントを送り込み、計画を策定し、実施を監督した。また、IMFや世銀に見るように構造調整などのconditionalityを課した。しかし、こうした援助形態が批判にさらされているのは周知の通りである。今日、とくに先進国における援助態様は、貧困、環境、人権、HIV/AIDSなどテーマを明確にし、地域や途上国を選定し、被援助国のオーナーシップを尊重する方針にシフトしている。その一方で、援助国においては援助の透明性、投資の効率性など援助国のvisibilityや援助のaccountabilityが問われている。たとえば、EUによるWater Facilityはアフリカ、カリブ、太平洋地域国に対して10億ユーロ以上の援助を下水、上水、農業用水を対象に行うものであるが、被援助国におけるプロポーザルとカウンターファンドを条件にしている。プロポーザルの段階から資金手当てまで途上国に責任とオーナーシップを与えている。また、途上国の援助に対する知識や政策も昔に比べると一段と向上している。

こうした援助国の援助態様や被援助国の援助に対する考え方の変化に対応して、コンサルタントの経営戦略も見直されるべきであろう。現状ではADCAコンサルタントが先進国や国際機関の援助システムの中に入り込むのは困難かもしれない。しかし、国際機関やJICAは勿論のこと、DIFD(英国)、CIDA(カナダ)、SIDA(スゥエーデン)などの援助態様や戦略、さらにUNDPのGEFファンドや中東諸国のファンドなどへのアプローチの可能性についてじっくりと検討してみる必要があるのではないだろうか。確実に言えることは、もはやかつてのような大規模な援助に対する開発調査は限定的と見るべきであり、代わって、中、小規模で援助国のテーマ(とくに、ミレニアム開発目標(MDGs)への貢献)に沿ったプロジェクトが増加するということであろう。仮にそうだとすれば、コンサルタントとしてはいかに対応するのか。援助態様に応じたシナリオと戦略を立てることが不可欠であろう。

上記の国際会議や首脳会談におけるコミットメントを見れば、農業に対する投資や援助の可能性について悲観的になることもない。要は、こうしたコミットメントをいかに実現し、コンサルタント業界の利益に結びつけるかである。困難な課題かもしれないが知恵を絞る以外に方法はない。

平成17年9月



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